✿2025年8月
②【四季 2025 〜夏〜】
朝から響くセミの鳴き声。
それは、まるで夏そのものを告げるファンファーレのようです。
「うるさいなぁ〜」と感じながらも、あの音がなければどこか物足りない──
そんな矛盾した感情を持つ方も多いのではないでしょうか。
けれどある朝、ふと頭に浮かびました。
• メスのセミは、このボリューム以外に興味はないのか?
セミのオスが鳴くのは、メスを呼ぶための行動です。
つまり、彼らの「声」(正確には発音器で出す音)は、求愛のメッセージにあたります。
このとき重要なのは、ただの「音量」ではありません。
鳴き声の音程・リズム・繰り返しパターン・周波数など、複数の要素が組み合わさっており、
メスはこれらを精密に聞き分けて「健康なオスかどうか」「同じ種かどうか」を判断しているのです。
つまり、ボリュームは選考基準の一部であり、 音質やパターンとの組み合わせで、魅力度が決まるといえるでしょう。
• 中には思い切ったボリュームを出せない、弱気なセミもいるのだろうか?
昆虫において「性格」のような感情ベースの差はあまり意味を持ちませんが、個体差は確かに存在します。
たとえば:
• 羽化したばかりの未成熟個体
• 病気や栄養不良などで身体が弱っている個体
• 羽化時に脱皮不全を起こした個体
などは、うまく音を出せない、もしくはすぐに疲れてしまうことがあります。
また、「鳴き交わし(コーラスバトル)」で他のオスに圧倒され、鳴くことをやめるオスもいます。 このとき彼らは、ただ「逃げている」のではなく、エネルギーを節約し、再挑戦のタイミングを計っている可能性があります。
つまり、鳴けないのではなく、今は鳴かないという戦略をとっている個体もいるということです。 • エネルギーの消耗が心配! 身の丈相応のボリュームで鳴けば、もう少し長生きできるのではなかろうか?
ここが、セミという生き物の“進化的宿命”ともいえる部分です。
セミの成虫は、地中で数年から十数年を過ごしたあと、ようやく地上に出て羽化します。 しかしその後の寿命は、たった1〜2週間ほど。
そのわずかな時間の中で、
• オスはメスを呼び
• メスは産卵し
• 両者とも繁殖を終えたら命を終える──
という、非常に短期集中型のライフサイクルを持っています。
したがって、彼らにとって「長く生きること」には、あまり進化的メリットがありません。
むしろ「最も鳴き、最も目立ち、最も早く交尾する」ことが、次世代へ遺伝子を残すための最重要課題。
そのため、彼らは燃料切れを恐れず、命を燃やすようにして全力で鳴くのです。
これは浪費ではなく、**種としての成功を最大化するための“投資”**ともいえるでしょう。
まとめ: セミの鳴き声は、ただうるさい夏の風物詩ではなく、 彼らの命のピークそのものです。
音の大きさも、回数も、リズムも、 すべてが「選ばれるため」「生きた証を残すため」の合理的な戦略。
そう考えると── 朝のセミの大合唱も、どこか崇高な響きに思えてきませんか?
それは自然が奏でる、命のラストステージの交響曲。 人知れず木陰で響くそのサウンドには、驚くほどの科学と戦略が詰まっているのです。
